今回ご紹介するのはシキナミカズヤ建築研究所によるクライアント夫婦+3匹の犬と1匹の猫のための住まい。クライアントの要望の一つがペットが自由に動き回れる住環境でした。敷地内にはそれぞれ異なる性格を持つ計5つの庭、そしてそれと対の関係で配置された6つの部屋がちりばめられ、人にも動物にも快適な空間が生み出されています。では早速見て行きましょう。
敷地は四方を田畑に囲まれたのどかな風景が広がる場所にあります。近隣に建物のないのびのびと開放的な立地は動物との暮らしにぴったりですよね。ただ庭を木の柵で囲むなど、農作業をする方々からの視線には配慮した空間構成がなされています。周囲の田園風景になじむウッディであたたかみのある佇まい。そして、非対称の屋根形状と前面の大きさの異なる2つの開口がチャーミングな外観となっています。
こちらはファサードのインターホンがある場所からいわゆる玄関までのアプローチ空間。ここでは外部空間、アプローチ、玄関、そして内部空間が一体化しており、その境目が曖昧なものとなっています。時と場合によって来客を手前で出迎えることも、奥に迎い入れることも可能です。犬にとって日本の狭い玄関は、「知らない人が来る狭い場所」というイメージが湧く場所。そんな犬たちの玄関というものに対するイメージを払拭しようという建築家の試みがなされている空間です。その先に見えるのは、壁に囲まれながらも光が差し込む「見る庭」です。
約500平米の敷地には5つの庭が散りばめられています。そしてそれぞれの庭には「見る、使う、光を入れる」といったさまざまな性格が与えられています。アプローチ通路から光庭を横目に建物へと入ると広がるのがリビング。そしてこのリビングに面しているのは広々とした芝敷きの「使う庭」です。たっぷり降り注ぐ陽光が動物や人を明るい庭へと誘い出します。冬場に柔らかな暖かさで家族を包み込む薪ストーブも据え付けられています。ナチュラルな雰囲気のインテリアも素敵ですね。木をふんだんに使った温かみのある空間で動物たちもほっと落ち着ける和みの空間です。
リビングと一続きになっているダイニングスペース。このダイニングは2つの庭に挟まれており、外部空間を身近に感じることができる開放的なスペースとなっています。そしてダイニングを挟むようにリビングと対になっている寝室が配置されており、そこでは大きさを抑えた「見る庭」を眺められる開口部をもうけて落ち着きある空間としています。
こちらの住まいでは寝室以外の床は土間仕上げとなっています。土間は、蓄熱機能が高い素材のため、暖まりにくく冷めにくいのが特徴です。冬暖かく、夏ひんやりした床で快適な生活を送ることができます。また、部屋の床仕上げを外部と同じ土間にすることで、汚れた足で歩き回ってもダメージが少なく、また掃除のし易さも考慮されています。
様々な場所で、見る、使う、光を感じる、など様々な接し方で遭遇するいくつもの庭。そのウチとソトを取り持つ空間によって外部と内部の境界はあいまいになり、より豊かで多彩な住空間となっています。人も動物も、家族全員が快適に気持ちよく過ごせる住まいの一つのヒントが「庭」という空間にあるのかもしれません。